"スローハンド"、"ゴッド"―。ギター界の至宝エリック・クラプトンを語る上で欠かせない2つの異名です。
1960年代のヤードバーズから、クリーム、ブラインド・フェイス、そしてソロ・アーティストとして、プロデビューから60年以上のキャリアを持つエリック・クラプトンの真価は、テクニックだけでなく、人生そのものを音に変える稀有な才能にあります。
ギターを "歌わせる" その腕前は、ジミ・ヘンドリックスやジミー・ペイジらと並び称されながら、半世紀以上もの間、唯一無二の輝きを放ち続けています。今なお多くのギタリストたちの憧れであり続ける "スローハンド" の軌跡から、厳選した名曲20選をお届けします。それぞれの曲に込められた魂の叫びと祈りを、じっくり見ていきましょう!
エリック・クラプトンの必聴曲
Layla
1970年、デレク&ドミス名義でリリースされたアルバム『Layla and Other Assorted Love Songs』の表題曲。
ジョージ・ハリスンの妻パティー・ボイドへの(当時)叶わぬ恋心から生まれた名曲です。一度聴いたら忘れられないほどインパクトが強いギターリフと後半のピアノコーダの二部構成、デュアン・オールマンによるスライドギターの名演も素晴らしく、米ビルボードで7位を記録。本編よりもコーダ部分の方が長いのですが、爽やかな余韻とアレンジの上手さのお陰で全く違和感がない!
親友の妻へ向けた略奪愛の歌が、まさか自身の代表曲になるとはクラプトンも考えもしなかったでしょうね。
Cocaine
1977年リリースのアルバム『Slowhand』収録。
J.J.ケイルの楽曲のカバーながら、クラプトンの代名詞となった一曲。シンプルかつ中毒性の高いリフと、皮肉を効かせた歌詞が特徴です。当時の彼自身の経験を反映した警告的なメッセージが込められており、ライブでは高頻度で演奏されていたファンにとっても馴染み深い人気曲です。
派手なギタープレイなないのですが、これぞクラプトンのストラトサウンド!というような極上のハーフトーンのクランチサウンドを聴かせてくれます。
I Shot The Sheriff
1974年、アルバム『461 Ocean Boulevard』からシングルカット。
ボブ・マーリーの楽曲をロックにアレンジした意欲作で、クラプトン唯一のビルボード1位曲。当初はアルバム収録に消極的でしたが、バンドメンバーの後押しで実現。「ブルースマンの新境地」と評され、レゲエ音楽の世界的普及にも貢献しました。
実はギターバッキングが結構凝っていて、3トラック分のカッティングやオブリパートを重ねて独特のグルーヴを生み出しています。
Sunshine of Your Love
1967年、クリーム時代の代表作のひとつとしてアルバム『Disraeli Gears』に収録。
深夜のジャムセッションでジャック・ブルースと生み出したダークなリフは、ジミ・ヘンドリックスをはじめ後世の多くのギタリストに影響を与えました。英米チャートともに5位を記録し、「サイケデリック・ロックの教科書」と称される一曲。
トリオバンドならではの、ビート押しの楽曲構成や潔いミックスダウンも、今聴くと逆に新鮮さを感じますね。
Crossroads
1968年3月10日、サンフランシスコのウィンターランドでのライブ録音。
アルバム『Wheels of Fire』に収録された“悪魔に魂を売ったブルースマン”ロバート・ジョンソンのカバー。ブルースの王道をヘヴィーロックに昇華させた革新的なアレンジと、クラプトンの超絶技巧が光る神がかったギターソロは、今なお多くのギタリストの憧れとなっています。
「現代ブルースロックの原点」と評されることも多く、多くの音楽学校でも課題曲として採用され続けています。
ブルージーなナンバー
Before You Accuse Me
1989年のアルバム『Journeyman』で披露されたボ・ディドリーのカバー。その後1992年の『Unplugged』でも再解釈され、エレクトリックとアコースティック、二つの異なる魅力で聴かせる珠玉の一曲です。
情感豊かなヴォーカルと研ぎ澄まされたフィンガーワークが見事に調和し、まさに円熟期のクラプトンを象徴する演奏として高い評価を得ています。クラプトンの真髄ともいえるコールアンドレスポンスが活きる一曲。
Have You Ever Loved A Woman
1970年、アルバム『Layla and Other Assorted Love Songs』に収録されたフレディ・キングのカバー。
パティー・ボイドへの秘めた想いを重ねて歌い上げた本作は、切実な歌詞とソウルフルでコッテリと暑苦しい(!?)ギターソロが見事に調和。デレク&ドミノーズ時代の真骨頂として、ギターマガジンで「最も感情を揺さぶるブルース演奏」にも選出。
Key To The Highway
1970年、同じく『Layla and Other Assorted Love Songs』に収録されたビッグ・ビル・ブルーンジーのカバー。
デュアン・オールマンとの即興的なギターの掛け合いは、まさに奇跡の9分半。レコーディング中、偶然スタジオに居合わせたオールマンとの化学反応から生まれた伝説的セッションとして、ブルースロック史に燦然と輝く名演です。
クラプトンとオールマンの、「間」や「フレーズの節(フシ)」の解釈がかなり近いので、何をやっても成立する感じが気持ちいい!
Five Long Years
1994年、オール・ブルースカバーのアルバム『From The Cradle』の中核を成す一曲。
エディ・ボイドの名曲を、半世紀に及ぶキャリアの集大成として昇華させました。グラミー賞ベスト・トラディショナル・ブルース・アルバム賞に輝いた本アルバムの中でも、とりわけ熱量の高い演奏として音楽評論家から絶賛されています。
シカゴの老舗ブルースクラブのオーナーからは「エリックは遂にブルースの本質を完全に理解し尽くした」との賛辞が贈られました。
バラードの名曲
Tears in Heaven
1992年、映画『RUSH』のサウンドトラックとして制作され、のちにアルバム『Unplugged』にも収録。1991年に事故で4歳で亡くなった愛息コナーへの深い愛情と喪失の悲しみを昇華させた楽曲です。
グラミー賞「年間最優秀レコード」「年間最優秀楽曲」など3部門を受賞。米ビルボードで2位を記録し、世界中で300万枚以上のセールスを達成。
クラプトンは2004年以降、この曲の演奏を控えるようになり、「喪失の痛みは癒えたが、敢えて思い出したくない」と語っています。肉親を亡くした人々からは「深い共感と癒しを覚える」という声が寄せられ続けており、人生の哀しみと再生を歌った永遠の名曲としても語り継がれています。
Wonderful Tonight
1977年、アルバム『Slowhand』に収録された珠玉のラブバラード。
パティー・ボイドが夜会に向けて着替えている様子からインスピレーションを得て書かれました。優しく包み込むようなギターの音色と、愛に満ちた歌詞がどこまでも優しい気持ちにさせてくれるナンバーで、結婚式の定番ソングとしても世界中で愛されています。
実は、左右にダブリングされたギターはかなり長いタイムラグを設けてあり(右がインタイム、左は遅延)、独特のまったり感を生み出す隠し味になっていますね。
Change The World
1996年の映画『フェノミナン』のサウンドトラックとして発表。
ケネス・"ベイビーフェイス"・エドモンズがプロデュースを手掛け、R&Bテイストを取り入れた斬新なアプローチが話題を呼びました。グラミー賞「年間最優秀レコード」を受賞し、ビルボードでも5位を記録。
サウンドやアレンジに関しては、8割はモロにベイビーフェイス、2割はモロにクラプトンという塩梅ですが恐ろしいほど合いますね!
My Father's Eyes
1998年のアルバム『Pilgrim』からのシングルカット。一度も会うことのできなかった実父と、天国で再会を果たした息子コナーへの思いを重ねた深い感情が込められています。
ライトレゲエを乗せた現代的なサウンドプロダクションと伝統的なブルースギターの融合が秀逸で、グラミー賞「最優秀男性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス」を受賞。個人的な物語を普遍的な感動に昇華させた傑作バラードです。
ロック・キャッチーな楽曲
Badge
1969年、クリーム最後のスタジオアルバム『Goodbye』に収録。
ジョージ・ハリスンとの共作で、タイトルは譜面に書かれた「bridge」という文字をハリスンが「badge」と誤読したことに由来するという逸話が残っています。
ハリスンも匿名でギター演奏で参加し、クラプトン特有のフレーズとハリスンのアルペジオが絡み合う名演を披露。英国チャートで18位を記録し、「クリーム解散前の最高傑作」と評価されている一曲。
White Room
1968年、クリーム時代のアルバム『Wheels of Fire』からのシングル。
作曲はジャック・ブルースとピート・ブラウンによるもので、当時のサイケデリックカルチャーを色濃く反映。楽曲は複雑な展開と実験的なアレンジが特徴的で、5/4拍子と4/4拍子を大胆に組み合わせた野心的な構成となっています。
米ビルボードで6位、イギリスのシングルチャートでも3位を記録する大ヒット。プロデューサーのフェリックス・パパラルディは「レコーディング時、バンドの化学反応が最高潮に達していた」と振り返っており、後のプログレッシブ・ロックにも大きな影響を与えた会心作です。
Forever Man
1985年、アルバム『Behind the Sun』からのシングルカット。
フィル・コリンズがプロデュースを手掛け、80年代ならではの洗練されたアレンジに仕上がっているロックナンバー!ジェリー・リン・ウィリアムズとの共作で、力強いヴォーカルとエッジの効いたギターワークが絶妙なバランスを見せます。MTVでヘビーローテーションされ、ビルボード・ロックチャートで12位を記録。「80年代クラプトンの代表作」として人気の高い一曲です。
Bad Love
1989年、アルバム『Journeyman』収録のタイトなロックナンバー。
ミック・ジョーンズ(フォリナー)との共作で、80年代後半のクラプトンの変貌を印象付けた意欲作です。フィル・コリンズのシャープなドラミングと重厚なシンセサイザーサウンド、そしてクラプトンの荒々しいギターワークが見事なコンテンポラリーロックを生み出しています。
特に、怒りと情熱を帯びたギターソロは、70年代を思わせる野性味あふれるプレイ!グラミー賞「最優秀ロック・ヴォーカル・パフォーマンス」を受賞し、ビルボード・メインストリーム・ロックチャートでも1位を獲得。クラプトンのミッドブーストをたっぷり加えた極上のギターサウンドも素晴らしい♪
アコースティック・フォークなナンバー
Running on Faith
1992年、『Unplugged』でのパフォーマンス。
オリジナルは1989年のアルバム『Journeyman』に収録されていましたが、アコースティックアレンジにより楽曲の持つ深い精神性が一層際立つ仕上がりとなりました。スライドギターの温かみのある音色と、年を重ねた声の味わいが絶妙な調和を見せており、こちらのバージョンの方が好きな人も多いのでは?
Blue Eyes Blue
1999年、映画『プリティ・ブライド』のサウンドトラックとして発表。同年のアルバム『Clapton Chronicles: The Best of Eric Clapton』にも収録された珠玉のバラード。
バラードの女王、ダイアン・ウォーレンによる書き下ろしで、クラプトンの繊細なヴォーカルと、透明感のあるアコースティックギターが映画の世界観を見事に表現しています。米ビルボード・アダルトコンテンポラリーチャートで4位を記録し、映画の成功と相まって世界的なヒットに。
Love Comes to Everyone
1999年、アルバム『Pilgrim』に収録された故ジョージ・ハリスンの名曲のカバー。
親友ハリスンへの深い敬愛を込めた演奏は、オリジナルの持つスピリチュアルな雰囲気を大切に残しながら、クラプトンならではのフォーキーなアレンジを加えた秀作。モダンR&B調のリズムセクション、アコースティックギターの生音が包み込む温かな空間、ジョージへの想いを乗せたようなスライドギターと、心温まる仕上がりになっていますね!
エリック・クラプトンの名曲紹介:まとめ
1963年、ロンドンのブルースクラブで鳴らされた一音から始まったエリック・クラプトンの音楽人生。
ヤードバーズ、ジョン・メイオール&ブルースブレイカーズ、クリーム、ブラインド・フェイス、デレク&ドミノーズ、そしてソロ・アーティストとして。半世紀以上にわたってギターの革新者として音楽史に足跡を残してきました。
本記事で紹介した20曲は、その壮大な音楽人生のハイライトに過ぎません。ミシシッピデルタから受け継いだブルースの魂を、時代とともに進化させ続けたクラプトン。ロバート・ジョンソンへの敬愛を込めた『Crossroads』から、パティー・ボイドへの想いを昇華させた『Layla』、愛息コナーへの祈りを込めた『Tears in Heaven』まで。彼の楽曲は、常に深い人生経験と強く結びついています。
デュアン・オールマン、ジョージ・ハリスン、フィル・コリンズ、ポール・マッカートニーなど、錚々たるミュージシャンとの共演も、クラプトンの音楽の幅を広げてきました。J.J.ケイルやボブ・マーリーの楽曲をカバーする際には、原曲への敬意を保ちながら、独自の解釈で新たな生命を吹き込んできたのです。
そして、80歳を迎えようとする今もなお、彼のギターは力強く鳴り続けています。本記事で紹介した名曲の数々は、これからも彼の楽曲は、新しい世代のミュージシャンやリスナーによって、新たな解釈と共に受け継がれていくことでしょう。心に触れ続ける、魂の音色として。
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