真夜中のニューヨーク、ある小さなジャズクラブ。そこでベースを手に佇む白髪の紳士は、かつて世界中の少女たちの心を虜にした伝説のロッカーだった。英語教師からThe Policeのフロントマンへ。そして今や、グラミー賞16度のノミネート、タンタリック・ヨガの実践者、アマゾン熱帯雨林の守護者—。私たちが愛してやまないスティングは、常に私たちの予想を良い意味で裏切り続けてきた。
「私の音楽は、世界の鼓動を記録する日記のようなものさ」そう語るスティングの瞳には、いつも未来が映っている。環境破壊、人権問題、戦争の悲劇—。彼は決して目を背けることなく、美しいメロディに乗せて私たちに語りかける。時に優しく、時に力強く、そして時に切なく。
今回は、そんな比類なきアーティスト、スティングの足跡を辿りながら、ポリス時代のナンバーも含めて21曲の名曲をご紹介します。
スティング(Sting)の有名曲
Every Breath You Take(見つめていたい)
1983年、The Police最後のアルバム『Synchronicity』に収録された不朽の名曲。一見すると甘いラブソングに聞こえるメロディとは裏腹に、その歌詞は「執着」と「支配」をテーマにした暗い内容を持ちます。スティング自身が離婚の痛手から書いたという背景も、楽曲の深い感情に影響を与えています。
アンディ・サマーズによる、add9コードを使用した印象的なアルペジオギターと、スティングの切なく響くヴォーカルが絶妙な調和を生み出し、ビルボードHOT100で8週連続1位を記録。1984年のグラミー賞では「年間最優秀楽曲賞」を受賞しました。
後にP. Diddyが「I'll Be Missing You」としてサンプリングした際には、スティングは1日あたり2000ドルの印税を得ていたというエピソードも。切なさと美しさが共存する完璧な世界観!
Fields of Gold
1993年のアルバム『Ten Summoner's Tales』からのシングル。スティングが自身のウィルトシャーの邸宅近くに広がる大麦畑からインスピレーションを受けて制作した楽曲です。
イングリッシュ・フォークミュージックの要素を取り入れた温かみのあるアレンジと、ノーザンブリアン・パイプスの印象的な音色が、英国の田園風景を見事に音で描き出しています。
制作時、スティングは「永遠の愛」をテーマに、できるだけシンプルな言葉で普遍的な感情を表現することにこだわったと語っています。このアプローチは見事に成功し、英国チャートで16位、モダンロックチャートでは23位を記録。
特筆すべきは、エヴァ・キャシディのカバーバージョンも大きな話題を呼び、原曲の新たな魅力を引き出したこと。人生の美しい瞬間を永遠に切り取ったような楽曲です♪
Englishman in New York
1987年のアルバム『Nothing Like the Sun』に収録された、スティングの代表的なソロ作品。ゲイ作家のQuentin Crispとの出会いから生まれた本楽曲は、「異邦人であることの誇り」を力強く歌い上げています。
ジャズとレゲエを融合させた革新的なアレンジに、ブランフォード・マルサリスの都会的なソプラノサックスが華を添えています。「Be yourself, no matter what they say」というフレーズは名言として引用されることもしばしば!
英国チャートで51位を記録。1990年にはDJ Jungle Brothers によるリミックスバージョンが発表され、UK TOP10入りを果たしました。移民や性的マイノリティのアンセムとしても広く認知され、多様性を受け入れることの大切さを教えてくれる一曲ですね。
Shape of My Heart
1993年『Ten Summoner's Tales』からの楽曲。ギタリストのDominic Millerとの共作で、ポーカープレイヤーの哲学的な生き方を描いた詩的な歌詞が特徴です。
繊細なクラシカルギターのアルペジオと、スティング特有の知的な歌詞世界が見事に調和。後にNas「The Message」やJuice WRLD「Lucid Dreams」などでサンプリングされ、次世代のアーティストたちにも大きな影響を与えています。
映画「レオン」の印象的なエンディング曲としても知られ、ファンからは「人生の真理を探求する旅路そのものを音楽化したような曲」という声が上がっています。
Desert Rose
1999年のアルバム『Brand New Day』からのシングル。アルジェリアの歌手Cheb Mamiとのコラボレーションによって生まれた、東西の音楽性が融合した革新的な作品です。
アラビック調のボーカルとエレクトロニックサウンドの組み合わせは、当時としては大胆な試みでした。ジャガー社の車のCMに起用されたことで知名度が一気に上昇し、ビルボードHOT100で17位、UKチャートで15位を記録。
かっこいい曲
Roxanne
1978年、The Policeのデビューアルバム『Outlandos d'Amour』に収録された衝撃作。パリの赤線地区で目にした売春婦たちへの複雑な思いを、レゲエとロックを融合させた革新的なサウンドで表現しています。
スティングがスタジオのピアノに腰掛けた際に鳴った不協和音が偶然にも曲の印象的なイントロとなったエピソードは有名。また、タイトルの「Roxanne」は、ホテルのロビーに掲げられていた古いフランスの演劇ポスターからインスピレーションを受けたと言われています。
英国チャートで12位、米国で32位を記録。当初の反応は控えめでしたが、再発売後に人気が爆発。パンクやニューウェーブ全盛期に、レゲエテイストを大胆に取り入れた先見性は、後の音楽シーンに大きな影響を与えました。ロックバンドの限界に挑戦した革新的な名曲のひとつ!
Message in a Bottle
1979年『Reggatta de Blanc』からのリード曲。孤独な魂が発する"SOS"が、世界中の同志たちとつながっていくという詩的なストーリーを、アンディ・サマーズの鮮烈なカッコ良すぎるギターリフと共に展開します。
スティングは「この曲は、人類普遍の孤独感と希望を描いている」と語っています。技術的には、アンディ・サマーズによる重層的なギターアレンジと、スチュワート・コープランドの緻密なドラムワークが絶妙な化学反応を起こしており、バンドのアレンジ能力が遺憾なく発揮された作品です。
UK singles chartsで1位を獲得し、米国でも74位にランクイン。1986年のLive Aid出演時のパフォーマンスは伝説として語り継がれています。究極のパワーポップであり、希望と絶望を同時に表現した傑作。
If You Love Somebody Set Them Free
1985年、ソロデビューアルバム『The Dream of the Blue Turtles』の最初のシングル。The Police解散後、スティングが新たな音楽的挑戦として、ジャズミュージシャンたちと共に作り上げた意欲作です。
「Every Breath You Take」の対極として意図的に作られたという本曲は、束縛ではなく解放を歌った自由への讃歌。ブランフォード・マルサリスのサックス、ケニー・カークランドのキーボードなど、一流ジャズメンとの共演が生み出す洗練されたグルーヴが特徴です。
ビルボードHOT100で3位、UKシングルチャートで26位を記録。「ロックスターからの見事な変身」と評価され、ソロアーティストとしての地位を確立する重要な一曲となりました。自由と愛の本質を教えてくれる、前向きでプッシュ感の強いナンバー!
Russians
1985年の『The Dream of the Blue Turtles』収録曲。冷戦時代の緊張関係の中で、「ロシア人も子供を愛している」という普遍的な人間性への信頼を歌った問題作です。
プロコフィエフの「ピーターと狼」のテーマを基調に、クラシカルなアレンジと政治的メッセージを見事に調和させた野心作。核戦争の脅威が現実味を帯びていた80年代に、東西の壁を超えた人類愛を説いた歌詞は大きな反響を呼びました。
英国で12位、米国で16位を記録。スティング史上、最もエピックな部類のメッセージソング!エンディングの時計の針の音が意味深です...。
バラードの名曲
Fragile
1987年『...Nothing Like the Sun』収録の珠玉のバラード。ブラジルの環境活動家Chico Mendesへの追悼として書かれた本作は、人間の生命の儚さと尊さを静謐な音世界で描き出しています。
ガットギターの繊細なアルペジオと、スティングの抑制の効いたヴォーカルが印象的。スパニッシュギターの情緒溢れるフレーズは、作曲時にスティング自身が1年かけてギターを練習して録音したというエピソードも。
英国チャートでは56位と控えめな成績でしたが、後にJulio Iglesiasやスティング自身のスパニッシュバージョン「Fragilidad」としても発表され、ラテンアメリカでは特に大きな反響を呼びました。環境問題や人権を、押しつけがましくなく美しく歌い上げています。
When We Dance
1994年のベストアルバム『Fields of Gold: The Best of Sting 1984–1994』のために書き下ろされた楽曲。既婚女性への切ない恋心を、優雅なビートに乗せて描いた大人のラブソングです。
制作では、クラシカルなピアノのアレンジと弦楽器の美しいハーモニーにこだわり、シューベルトの歌曲のような芸術性の高い仕上がりとなっています。特に後半のストリングスのクレッシェンドは、感情の高まりを見事に表現していますね〜!まるで水中を泳いでいるような感覚になります。
UK Singles Chartで9位を記録し、ミュージックビデオは1995年のグラミー賞にノミネート。クラシック音楽の要素を見事にポップスに取り入れたスティングならではの味付け。
Moon Over Bourbon Street
1985年『The Dream of the Blue Turtles』収録。アン・ライスの小説「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」にインスパイアされた異色作。ニューオーリンズの夜の街を彷徨う吸血鬼の心情を、ジャズテイストのダークな旋律で表現しています。
スティングは実際にBourbon Streetを歩いた時の月明かりからインスピレーションを得たと語っています。ジャズのウォーキングベースと不気味なブラスセクション、そしてスティングの囁くようなヴォーカルが、独特の世界観を作り出しています。
チャートインはしませんでしたが、ジャズファンやゴシック系音楽ファンからのカルト的人気を獲得。文学的な歌詞とジャズの融合が秀逸です。
Mad About You
1991年『The Soul Cages』からのシングル。旧約聖書の「ダビデ王とバテシバ」の物語をモチーフに、禁断の愛の苦悩を現代的に解釈した野心作です。
中東的なスケール感を持つメロディラインと、マンドリンや弦楽器を効果的に使用したアレンジが特徴。スティングは「愛の狂気」を表現するために、あえて伝統的なポップスの構造から逸脱した作曲を試みたと語っています。
米国のAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)チャートで上位にランクイン。「オリエンタルな要素を取り入れた斬新なバラード」であり「古代と現代を結ぶ壮大な愛の物語」でもある!
They Dance Alone (Gueca Solo)
1987年『...Nothing Like the Sun』収録。チリの独裁政権下で行方不明になった家族を持つ女性たちの抗議のダンス「クエカ・ソラ」に着想を得た楽曲です。
伝統的なラテン音楽の要素を取り入れながら、深い悲しみと希望を表現した政治的バラード。ルーベン・ブラデスとの共演や、スパニッシュバージョン「Ellas Danzan Solas」の制作など、ラテンアメリカとの強い結びつきを示しています。
この曲は、1988年のアムネスティ・インターナショナルのツアーでも演奏され、「人権侵害に対する最も美しい抗議の歌」との声も。
映画主題歌・挿入歌
It's Probably Me(リーサル・ウェポン3)
1992年公開の「リーサル・ウェポン3」のメインテーマ。ギターリスト、エリック・クラプトンとの豪華コラボレーションとして話題を呼びました。映画の主人公であるマーティン・リッグスとロジャー・マータフの複雑な友情を、ブルージーなサウンドで見事に表現しています。
スティングとクラプトンは実際に親密な友人関係にあり、その経験が「男同士の固い絆」を描いた歌詞に反映されているといいます。マイケル・ケイメン編曲による重厚なオーケストレーションも、楽曲の魅力を引き立てていますね!
映画の大ヒットと共に、UK Singles Chartで30位、US Billboard Hot 100で52位を記録。
All For Love(三銃士)
1993年の映画「三銃士」のエンディングテーマ。ブライアン・アダムス、ロッド・スチュワートとのスーパーグループ的コラボレーションが実現。「みんなのために、一人のために」という物語のテーマを壮大なロックバラードとして昇華させています。
プロデューサーのマット・ラングは、3人の個性的な声を活かすため、それぞれのパートを慎重に配置。スティングの知的で落ち着いたヴォーカルが、楽曲全体のバランスを絶妙にコントロールしています。
US Billboard Hot 100で1位、UK Singles Chartで2位を獲得。90年代を代表するパワーバラード!世界最高峰のイケボの祭典です(笑)
My Funny Friend and Me(ラマになった王様)
2000年のディズニー映画『ラマになった王様(The Emperor's New Groove)』のエンディングテーマ。スティングにとって初のディズニー作品への参加となり、デイビッド・ハートレイとの共作で、映画のコミカルさと心温まるメッセージを見事に表現しました。
作曲過程では、南米アンデス地方の民族音楽の要素を取り入れながら、現代的なポップスとして再構築。スティングは「子供から大人まで楽しめる普遍的な曲を目指した」と語っています。
アカデミー賞歌曲賞にノミネートされ、ゴールデングローブ賞にもノミネート。
Until(ニューヨークの恋人)
2001年の映画『ニューヨークの恋人』(Kate & Leopold)のメインテーマ。時を超えた恋を描く映画の世界観に合わせ、クラシカルな要素とモダンなサウンドを融合させた優雅なバラードに仕上げています。
制作にあたっては、19世紀のワルツ音楽を研究し、現代的な解釈を加えたというエピソードも。映画の時代設定にマッチした楽器選びと、スティング特有の詩的な歌詞が見事に調和しています。
ゴールデングローブ賞の主題歌賞にノミネート。映画の雰囲気を完璧に補完するサウンドデザインは流石ですね。
コラボ楽曲
Stolen Car (with Mylène Farmer)
2015年にフランスの歌姫ミレーヌ・ファルメールとリメイクした楽曲。元々は2003年のアルバム『Sacred Love』に収録されていた曲が、ミレーヌとのデュエットにより、新たな命を吹き込まれました。
フランス語と英語が交錯する詩的な歌詞世界と、二人の声が織りなす官能的なハーモニーは絶品!スティングの落ち着いた歌声とミレーヌの妖艶な声質が絶妙なコントラストを生み出しています。
フランスのシングルチャートで1位を獲得し、ヨーロッパ全土で大きな反響を呼びました。異なる言語と文化が融合した芸術作品です。
Rise & Fall(with Craig David)
2003年、英国の新世代R&Bスター、クレイグ・デイビッドとのコラボレーション。「Shape of My Heart」のギターリフをサンプリングし、現代的なR&Bサウンドと融合させた野心作です。
若手アーティストの突然の成功と挫折を描いた歌詞は、クレイグ自身の経験を反映。スティングは「若いアーティストへのアドバイスという形で参加できた」と語っています。世代を超えた二人の声が、fame(名声)の儚さと本質的な価値を問いかけます。
UK Singles Chartで2位を記録し、MTVヨーロッパ音楽賞にもノミネート。異なる世代のアーティストのコラボは新鮮ですね♪
Always On Your Side(with Sheryl Crow)
2006年、シェリル・クロウのアルバム『Wildflower』収録曲のデュエットバージョン。同世代の実力派シンガーソングライター同士の共演として話題を呼びました。
制作のきっかけは、シェリルが「スティングの声が完璧にフィットする」と直接オファーしたこと。二人の透明感のある声質が見事に調和し、大人の切ない恋愛感情を繊細に表現しています。レコーディング時、スティングとシェリルは即興的にハーモニーを作り上げていったというエピソードも。
Adult Contemporary Chartで11位を記録。アコースティックの味わいが2人のハモリでより深まります。
スティングの名曲ベスト21:まとめ
スティングの名曲を21曲厳選してご紹介してきましたが、彼の音楽の本質は「進化をやめない」ことと、「予想の一歩先を行き続ける」ことにあるのかも知れません。
だからこそ、40年以上のキャリアを経た今もなお、スティングの音楽は私たちの心に新鮮な感動を呼び起こしてくれるのでしょう。政治や社会への意識、文学的な知性、そして何より音楽への純粋な愛。これらすべてが調和した彼の作品は、ポピュラー音楽というカテゴリーを超えて、現代音楽の最高峰の一つとしても確固たる地位を築いています。
そして今なお、新しい音楽的冒険を続けるスティング。この先どんな音楽を私たちに届けてくれるのか?
その期待は尽きることがありません、まさに彼は、現代の吟遊詩人と言えるでしょう!
社会の「今」を見つめ、普遍的な人間の真実を歌い、そして未来への希望を描き出す—。スティングの音楽は、そんな壮大な物語として、これからも歴史に刻まれていくのです。
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