1970年のある日、世界中が注目するニュースが飛び込んできました。「ビートルズ解散」。音楽史上最も影響力のあるバンドの終焉でした。しかし、これはメンバーそれぞれの新たな物語の始まりでもありました。その主役となったのが、ポール・マッカートニー。彼は、ビートルズの "ベーシスト" という肩書を脱ぎ捨て、独自のポールサウンドを築き上げていきました。
牧歌的なメロディから実験的なサウンドまで、その音楽性は驚くほど多彩!70年代には「Band on the Run」で商業的成功を収め、80年代には「Ebony and Ivory」でスティーヴィー・ワンダーとのデュエットを実現。90年代以降も、エルヴィス・コステロやカニエ・ウェストとのコラボレーションを果たすなど、常に新しい挑戦を続けています。
「天才」と呼ばれながらも、音楽への純粋な愛情を失わない。傘寿(80歳)を超えた今もなお、その創造性は衰えることを知りません。『クォーリーメン』『マッカートニーⅢ』といった近年の作品からは、むしろ若々しい実験精神すら感じられるから驚きです!
では、彼の50年以上におよぶソロ活動の中から、どのアルバムを聴けば良いのでしょうか?今回は、ウイングス名義も含めポール・マッカートニーの音楽の真髄に触れられる名盤TOP5と、初心者にぴったりのベストアルバム・ライブアルバムをセレクトしました。ビートルズ解散後のポールのディスコグラフィーを、一緒に辿っていきましょう♪
ポール・マッカートニーの名盤TOP5
Band on the Run - 70年代を象徴する、ウイングス最高傑作
1973年、ポールはラゴスでこのアルバムを録音しました。録音開始直前、バンドメンバーの突然の脱退という危機に見舞われながらも、妻のリンダと共に乗り越えた逆境の記録です。タイトル曲「Band on the Run」は、まさにその状況を象徴するかのような疾走感あふれる組曲的構成。「Jet」のパワフルなロックサウンド、「Let Me Roll It」のブルージーなギターリフは、今聴いても秀逸ですね。
ローリング・ストーン誌は「70年代の最も影響力のあるアルバムの一つ」と評価。グラミー賞2部門を受賞し、イギリスとアメリカでミリオンセラーを記録。デヴィッド・ボウイやエルトン・ジョンも絶賛したこの作品は、ポールの創造性が最も輝いた瞬間を捉えた名盤!
Tug of War - ビートルズのプロデューサーと再会!円熟の傑作
1982年、ジョン・レノン射殺の衝撃から立ち直ったポールが、ビートルズ時代のプロデューサー、ジョージ・マーティンと再タッグを組んだ意欲作。スティーヴィー・ワンダーとのデュエット「Ebony and Ivory」、ジョンへの追悼曲「Here Today」など、多彩な表現を見せています。
80年代のテクノロジーを巧みに取り入れながらも、楽器の生音を大切にした温かみのあるサウンドが特徴。カール・パーキンスとの「Get It」では、ロカビリーの魅力も健在。「ソロ期最高の完成度」との見方も多く、グラミー賞にもノミネート。
RAM - 実験精神と天才的なポップセンスが融合
1971年、ニューヨークの牧場地で録音されたセカンド・ソロアルバム。妻リンダとの共作として発表された本作は、スタジオミュージシャンたちとの緻密なアンサンブルが光ります。「Uncle Albert/Admiral Halsey」のようなスイート的構成の楽曲から、「Too Many People」のようなロック色の強い曲まで、その音楽性は多岐にわたります。
当時は賛否両論でしたが、2010年代に入って大きな再評価の波が起こり、ピッチフォークは満点の10点を付与。特にインディーロック界への影響は計り知れません。
McCartney - DIYスピリットが息づく、ソロ・デビュー作
1970年、自宅スタジオで録音された初のソロアルバム。ほぼすべての楽器を自身で演奏し、プロデュースした本作は、ビートルズ解散後の新たな出発を告げる作品となりました。「Maybe I'm Amazed」の圧倒的な歌唱力、「Junk」の繊細なメロディライン、実験的なインストゥルメンタル曲など、その後の音楽性の萌芽が感じられますね!
レコーディング時のホームビデオ映像が残されており、リンダとの二人三脚で制作された様子も記録されています。ポール独自のカラフルな色彩感と、そのナチュラルな音作りをビートルズ時代の質感と聴き比べてみるのも面白いです。
Off the Ground - 90年代の新境地を開いた意欲作
1993年、バンドとの長期のリハーサルを経て生まれた意欲作。環境問題や平和への願いを込めた「Hope of Deliverance」、エルヴィス・コステロとの共作「Mistress and Maid」など、90年代のポップミュージックを意識しながらも、独自の世界観を打ち出しています。
同時一発撮りを基本としたライブ感を重視した録音方法を採用し、バンドの一体感が見事に表現されています。ハイファイなデジタル録音ながらアナログ的な温かみをしっかり残した贅沢なサウンドも素晴らしく、各曲ごとにコンテンポラリーなアプローチを試す移行期ですが、アルバムを通して聴いたときの世界観はバッチリまとまっています。
初心者向けベストアルバム
Wingspan: Hits and History - ソロ&ウイングス時代を網羅した決定版ベスト
2001年、ポールは自身のソロキャリア30周年を記念して、この記念碑的なベストアルバムをリリースしました。2枚組という贅沢な構成で、CD1の「Hits」には「Band on the Run」「Live and Let Die」といったヒット曲を、CD2の「History」には「Tug of War」「Waterfalls」といったアーティスティックな楽曲を収録。
また、息子のメアリーが撮影した未公開写真や、ポール自身による楽曲解説を含む豪華ブックレットも付属。アメリカのビルボードチャートでは23位を記録し、全世界で200万枚以上を売り上げました。
ローリング・ストーン誌は「ビートルズ以降のマッカートニーを理解するための最良の入門書」と評価。曲順が秀逸でリマスターの音質が素晴らしいのでイチオシベスト盤です!
ピュア・マッカートニー~オール・タイム・ベスト - 45年の軌跡を凝縮
「長距離ドライブで聴きたいベストアルバムを作ってほしい」―― あるファンからの手紙をきっかけに誕生した本作は、ポールの音楽人生を鮮やかに映し出す2枚組39曲のコレクションです。
1970年の『マッカートニー』から2015年の「ホープ・フォー・ザ・フューチャー」まで、時代を超えた名曲を収録。「メイビー・アイム・アメイズド」や「バンド・オン・ザ・ラン」など70-80年代の黄金期から、90年代以降の実験的な作品群をバランスよく収録。特に1989年以降の楽曲の多くがベストアルバム初収録!
ポールによる選曲のコンセプトは「日常の様々な場面で楽しめること」。ドライブはもちろん、くつろぎのひととき、友人とのパーティーなど、シーンに合わせて楽しめる多様性を持たせたとのこと。2016年のリリース時には、イギリス3位、アメリカ15位、日本4位と各国で好セールスを記録。まさにポール・マッカートニーの決定版ベストアルバムと言えるでしょう。
おすすめライブアルバム
Back in the U.S. - 21世紀に蘇る伝説のステージ
2002年の北米ツアーを収録した本作は、ビートルズ時代からソロ作品まで、ポールの音楽人生を網羅した豪華2枚組ライブアルバムです。デジタル録音ならではのクリアなサウンドと、若々しい歌声が特徴的。特に「Hey Jude」「Let It Be」といったビートルズナンバーは、現代的なアレンジで新たな輝きを放っています。
バンドメンバーとの息の合った演奏も見事で、「Maybe I'm Amazed」ではポールシャウトが、「Yesterday」では繊細なアコースティックギターの音色が、観客を魅了!
このツアーは9.11テロの翌年に行われ、アメリカの癒しと復興への願いを込めた特別な意味を持つものでした。アルバムはBillboard 200で8位を記録し、グラミー賞のパッケージデザイン賞にもノミネート。
Paul Is Live - ロッカーの精神で挑んだ白熱のライブ
1993年のニューワールドツアーを収録した本作は、従来のライブアルバムの概念を覆す斬新な内容となっています。タイトルは、かつてのポール死亡説(Paul is dead)をもじったユーモアのセンスも効いています(ポールは生きているよ!という。笑)
従来の代表曲に加えて「Hope of Deliverance」「C'Mon People」といった90年代の新曲も積極的に披露している点も聴きどころです。「Live and Let Die」では普段よりもハードロック寄りのアグレッシブなアレンジを採用するなど、実験的な試みも随所に見られます。
録音はマルチトラック方式〜細かなトラック毎のトリートメントを採用せず、オフマイクを活かしたよりライブ感を重視した手法を取り入れました。その結果、バンドの一体感とエネルギーが生々しく伝わってくる仕上がりに!個人的にはこの頃のバックバンドの演奏が一番クオリティーが高いと思います(特にギターのロビー・マッキントッシュが最高です)
初心者向けポール・マッカートニー入門
ポール・マッカートニーの魅力とは?
天才的なメロディーメイカーとして知られるポール・マッカートニー。しかし、その魅力は単なる「良い曲を書ける人」という枠を遥かに超えています。
その音楽的な多面性の一部をみても、クラシカルなバラード「Yesterday」から、ハードロック「Helter Skelter」、実験的な「Temporary Secretary」まで、あらゆるジャンルを自在に操ります。さらに、すべての楽器を完璧にプレイできる類まれな演奏力も持ち合わせているスーパーマルチアーティスト!
また、80歳を超えた今なお、新しい音楽への探求心を失わない姿勢も魅力の一つ。2020年のアルバム『マッカートニーⅢ』では、最新のプロダクション技術を取り入れたチャレンジングな作品を発表して、守りに入らない姿勢を見せつけました。
ポール・マッカートニーのアルバムの選び方
ポールの膨大な作品群から、自分に合ったアルバムを見つけるコツをご紹介します。
- ビートルズ的なサウンドが好きな方
→『Tug of War』『Flaming Pie』がおすすめ。ビートルズ時代のプロデューサー、ジョージ・マーティンが手掛けた作品です。 - 実験的な音楽が好きな方
→『McCartney II』『Memory Almost Full』。電子音楽やアヴァンギャルドな要素を取り入れた意欲作です。 - ストレートなロックが好きな方
→『Band on the Run』『Off the Ground』。ウイングス時代の代表作で、70年代ロックの神髄を味わえます。
ポール・マッカートニーのアルバム売上とその影響
ギネス世界記録によれば、ポールは「史上最も成功した作曲家およびレコーディングアーティスト」として認定されています。ビートルズ時代からソロ活動を含めた総セールスは、シングルとアルバムを合わせて1億枚以上と言われています。
特に影響力が大きかったのは、1973年の『Band on the Run』です。全米チャート1位、グラミー賞受賞という商業的成功に加え、デヴィッド・ボウイやクイーンなど、同時代のミュージシャンにも大きな影響を与えたことも有名ですね。
また、デイヴ・グロール、テイラー・スウィフトなど、ジャンルを超えて多くのミュージシャンが彼から影響を受けたと語っています。
音楽産業への貢献も特筆すべきでしょう。MPL Communications(彼の音楽出版会社)を通じて、著作権管理の新しいモデルを確立。また、デジタル音楽配信への早期対応など、ビジネス面でも革新的な取り組みを続けています。
まとめ:初心者がポール・マッカートニー聴くなら、この名盤とベスト盤から!
半世紀以上にわたって音楽シーンの最前線で輝き続けるポール・マッカートニー。その膨大なアルバム群の中から、特に初心者の方におすすめしたい作品を厳選してご紹介してきました。
まずは、入門者にはベストアルバム『Wingspan: Hits and History』から始めることをおすすめします。ウイングス時代からソロ作品までをバランスよく収録しており、ポールの音楽世界を概観するのに最適です。その上で、70年代の代表作『Band on the Run』や、80年代の円熟作『Tug of War』に進むのが理想的でしょう。
また、ライブの臨場感を体験したい方には『Back in the U.S.』を。ビートルズ時代の名曲から近年の楽曲まで、現代的なアレンジで楽しむことができます。
そして何より大切なのは、「これが正解」という決まった順序にとらわれないこと。ポールの音楽は、聴く人それぞれの人生に寄り添い、異なる魅力を見せてくれます。クラシックを思わせる美しいメロディ、ロックンロールの疾走感、実験的な電子音楽。あなたの心に響く「あなただけのポール」が、きっと見つかるはずです。
細かい理屈は抜きにして、音楽の魔術師ポール・マッカートニーの世界を味わい尽くしましょう!
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