ギター・ロックの歴史に燦然と輝く一つの名前がある。
そう、“孤高のギタリスト”ジェフ・ベックだ。
彼の名を聞けば、ロック・ファンならずとも誰もが頷くだろう。なぜなら、ベックはギター界に革命を起こした変革者だったからだ。
ギターの概念そのものを一新し、無限の可能性と表現力を吹き込んだのがこの人物である。
ギターが歌い、泣き、そして震える。ベックの手にかかればそこまでできた。
人の声以上に豊かな表情を持ち、奥深い味わいを湛えていく。時に奇をてらった実験的な手法で、これまでの音作りの常識を打ち破ったのだ。
そしてそのインパクトは音楽の枠を超え、時代を画する芸術的偉業となった。ベックの遺した足跡は無数のアーティストに影響を与え、ロック・ミュージック史に金字塔のように(もはや誰も越えられない壁として!)立ちはだかる。
それだけではなく、彼は人としても心に響く魅力に溢れていた。
音楽に対する並々ならぬ情熱と探究心、そしてユーモア溢れる人柄と謙虚さ。本当に凄い人間だった。
今回は、そんな伝説のギタリスト、ジェフ・ベックが"凄い"と言われる9つの理由を詳しくご紹介したい。
1. ブルースをルーツに才能を育み、一気に天才ギタリストへ
ブルースに魂を奪われた少年時代
ロンドン南部の街で育ったジェフ・ベックは、まだ子供の頃からブルースの魔力に心奪われていました。
放課後はよくラジオからブルースの生ライブ音源が流れてくるのを待ち構え、ギターに魂を奪われていく少年だったそうです。
当時から才能の芽は見逃せなかったはずです。
ギターを始めたばかりのベックの演奏、どんな感じだったのでしょうね!?
チャンスをつかんだ、若きヤードバーズ時代
10代にしてThe Nightshiftに加入したベック。
バンドを渡り歩く中で着実にギタリストとしての地位を高め、やがて名門バンドのザ・ヤードバーズへと辿り着きます。
ここで一躍ブレイクを果たし、トップギタリストへの足掛かりに弾みがついたのです。
ソロ活動での大当たり作品 - 名盤「ブロウ・バイ・ブロウ」
しかしベックにとって真の記念碑は、ソロ活動から生まれました。
1960年代後半から本格的なソロプロジェクトとして動かしていたジェフ・ベック・グループを経て、ついに1975年に発表された「ブロウ・バイ・ブロウ」が金字塔の名作となったのです。
この作品の革新性とインパクトが、ベックを不世出の天才ギタリストへと押し上げたと言えるでしょう。
そしてBlow By Blow の制作時、ジェフベックはなんとまだ20代後半(発売時30歳)、ドラマーのリチャード・ベイリーに至っては当時18歳!おそろしや...
若くしてスピード出世作を世に出した天才アーティストは多けれど、この信じられないほどの完成度の高さに世界中が驚きました。
文字通り「後にも先にもない」名盤中の名盤アルバムです。
2. ロックの革命児が生み出した新機軸のギタープレイ
ギターソリストとして、新たなる表現力を吹き込む
ジェフ・ベックが生み出したギターの概念は、まさに革命的でした。
当時のギターのソロ(ソロイング)は主にメロディーラインを弾くスタイルが一般的でした。
しかしベックはそこに止まらず、リズミックアプローチ、モーダルなスケールアプローチ、ただの旋律としてではない独自フレーズをバリエーション豊かに組み込んでいきます。
もはや、それまでのような「はい、ギターのバッキングです」「はい、ギターで旋律を弾いてます」といった一般的なアプローチとは全く違う次元の、
「え!?何これ...どうやって弾いてるの??」
「そもそも、これはギターの音!?」
というような反応だったのです。
当時は今のようにYouTubeも教則ビデオもありませんから、レコードから流れる音だけを聴くと、そんな風にビックリして当然だと思います。
※スティーブ・ルカサー氏は、初めてジェフベックの曲を聴いたとにに「宇宙人がギターを弾いてるのか」と思ったとインタビューに答えています。
また、ジェフベックと親交の深かったルカサーは、『人生を変えたアルバム10枚』の2位にジェフベックの「Jeff Beck’s Guitar Shop」を挙げています。
スティーブ・ルカサー談:まず第一に、ジェフ・ベックの作品はすべて俺の人生を変えたものだ。だからお気に入りを1枚に絞って選ぶのは難しいが、このアルバムは私にとって非常に特別なものなので、これ(Jeff Beck’s Guitar Shop)を選ぶ。ジェフのプレーは俺たちが尊敬するものにいつも進化していて、彼は俺が何度も間近で見た唯一無二のプレーヤーだった。ジェフ・ベックは、これまでの他の誰とも同じように考え、演奏し、サウンドすることはない。ジェフは最高の中の最高だった。他のみんなにも聞いてみろよ。
classicrockhistory.com
まるで物語を紡ぐかのように、ギターにドラマチックな表現力を吹き込んだのです。
自由で抑制のきかないスタイル - 予定調和は一切なし!
そのベックのプレイスタイルは、自由で抑制のきかない情熱を体現していました。
どこかコーナーを曲がれば新たな可能性が待っている、そんな勢いを感じさせます。
まるでロック精神の権化のような、衝動と情念のこもった予測不可能なギタリングに、リスナーは心躍らされるのです。
多様なジャンルの絶妙な融合
ベックはブルースをルーツに、そこにロックの革新性やジャズっぽい解釈、ハウスミュージックなど色んなジャンルの音楽性を絡めていきました。
ブルースのディープな魂と異質のジャンルの音楽という、猥雑な咆哮を見事に調和させた、まさに二つの火種を掻き合わせた火花のようなスタイルが生まれたのです。
そこに燃え上がるエネルギーと、リスナーが受ける衝撃は計り知れません。
ベックがつくるサウンドは、誰もが初めて聴くような音楽なのですから。
3. 実験的な手法で無限の可能性を切り拓いた音作り
変則的な裏技の数々
ジェフ・ベックのギタリングでは、ありとあらゆる変則的な裏技が使われていました。
ドライバーで弦を擦ったりコーヒー缶を打ち付けたり、ギターのピックアップにマクドナルドの紙ナプキンをかぶせるなんていうトンデモなテクニックもあります(笑)
まさに常識を打ち破る、奇想天外なサウンドメイキングの数々です。
サウンド・メイキングへの探究心
その裏に垣間見えるのが、ベックの音作りへの半端ない探究心です。
新しいサウンドを切り拓きたい、そんな情熱からくる突拍子もない発想が、実験を重ね続ける原動力になっていたのでしょう。
ピックを使用せずに指で弾いたり、ギター側のボリュームコントロールを細かく調整して表情を豊かにしたり、アンプとのフィードバック音やノイジーな特殊効果を活用したり。
音を、いやギターそのものを、自由に解釈し尽くそうとする姿勢がベックにはありました。
時代を先取りしたプロセシングとギター奏法
ベックの活躍し出した1960-70年代は、まだエレキギターの電子的プロセシングが一般的ではありませんでした。
それでも彼はサスティーン効果や極めて高音域なトーンを生み出し、常に時代を先取りしていました。
プロセシングの可能性をグンと引き伸ばした先駆者だったのです。
ずば抜けた演奏技術や作曲センスだけでなく、サウンド・メイキングの無限性をいち早く体現した、まさに革新の人でした。
ジェフベックが多用するギター奏法
- アーミング
- フィンガーピッキング(指弾き)
- クリケット奏法
- フィードバック奏法
- バイオリン奏法
- ギャロッピング
- ピッキングハーモニクス
- チョッピング奏法
- ボトルネック奏法
その他、現代のギタリスト達が普段から使っている「スクラッチ奏法」や「上昇ハーモニクス奏法」なども、元はと言えばジェフベックが編み出したテクニックですし、ジョン・メイヤーなどの現代のギターヒーローが指弾きで豊かなトーンを生み出すことも、ベックの影響が大きいのです。
4. 多様で表情豊かな"ギターの声"を自在に操る
スケールとフレーズの豊富な組み合わせ
ジェフ・ベックのギタープレイは、無数のスケールとフレーズの組み合わせから成り立っていました。
ブルースを基調としつつ、メジャー、マイナー、モーダルやペンタトニックといった様々な要素を投入していきます。
ちょっとしたひねりでも、音に新たな表情を生み出すのです。
しかし、当の本人は「俺は音楽理論のことは良くわからないんだよ」と答えています。
むしろ、音楽理論を学んでいないからこそ、超感覚が研ぎ澄まされているのでしょう。
色彩と奥行きに富むギタープレイ
ベックの手から生み出されるギター・ソロは、絵画のように色彩と奥行きに富むものでした。
ひとつひとつのフレーズに意味と表情があり、シーンによっては艶っぽさや哀愁を湛えていきます。
聴けば聴くほど新たな世界が広がっていく、こんなにも奥深い作品は簡単には見つからないものです。
哀愁から艶っぽさまで表現する
そのベックのギターは、ブルースの魂に呼応するような哀愁から、艶っぽいグルーヴィーなサウンドまで表現できました。
ジャズのようなクールさ、ブルースの渇いたようなシャウト、ロックの咆哮など、"ジェフのギターの声"には豊かな表情があふれていたのです。
人間の声以上に、ギターに込められた魂を感じさせてくれます。
5. 金字塔の名曲群が示す偉大なる功績
ヤードバーズの代表曲
ジェフ・ベックが名演を残した宝庫といえば、ヤードバーズ時代の「ハートフル・オブ・ソウル」や「シェイプ・オブ・シングス」が代表格です。
これらの曲からベックのハイトーンで抜きん出た、美しくも切れ味鋭いギターの輪郭が立ち現れてきます。
まさにこの時代、ベックの革新的なプレイの基盤が芽吹き始めていたのです。
ジェフベックが世に残した、数々の名盤
そしてソロに活動の場を移してからは、「ブロウ・バイ・ブロウ」や「ワイアード」といった金字塔の名盤を残しました。
後期の作品ですと「Who Else!」もファンからの人気が高いアルバムです。
これらの作品を聴けば、ベックがいかにロック史の潮流を変えたかが手に取るように分かるはずです。
ギター・ソロの概念そのものを書き換えた革命的な名盤群です。
ロック史に燦然と輝く足跡
前人未到の領域でしなやかにソロを紡ぐベック。その類まれな才能はロック史に大きな足跡を残しました。
新機軸のギタープレイ、常に可能性を拡げ続けたギター音作り。これらの功績が今なお色褪せることなく輝き続けるのは、ベックの偉大さを物語る証しです。
6. 後続のギタリストに与えた計り知れない影響力
公然とベック愛を公言する大御所
ジェフ・ベックの影響力の大きさは、他の大御所ミュージシャンたちからも語られています。
エリック・クラプトンは公然とベック愛を公言し、ジミ・ヘンドリックスもまた熱心なファンでした。
ロック界の最高峰に立つ巨匠たちが、心からベックを敬慕していたことが分かります。
クラプトン、ヘンドリックスらへの影響
実際、クラプトンやヘンドリックス、ギルモアらの卓越したプレイは、ベックの影響があってこそ花開いたのです。
斬新なギタープレイへの衝撃と憧憬、そしてたくさんのインスピレーションをベックから受け取ったに違いありません。
1960-70年代に活躍したギタリストたちは皆、ベックにリアルタイムで刺激を受けまくるという恵まれた時代を生きていたのかもしれませんね!
ロック・ギター界の旗手
間違いなく、ジェフ・ベックはロック・ギター界の旗手であり続けます。
時を超えて受け継がれるその功績と影響力は、後続のミュージシャンたちを力強く導き続けるでしょう。
才能と功績に裏打ちされたロックの革命児は、永遠の指標としてギター界に燦然と輝き続けるのです。
7. 音楽を超えた文化的インパクト
音楽性の高さで他ジャンルからも評価
ジェフ・ベックの影響力はロック・ミュージック界に留まりません。
ジャズ界からも高い評価を受け、クラシック音楽の愛好家からさえ称賛の声が上がるほど!
それほどに高い音楽性とセンス、そして表現力の豊かさがベックにはあったのです。
音楽を越えたアーティストとしての地位
ギター演奏以外にも、詩の朗読などベックの活動は多岐にわたっていました。
ロックミュージシャンという枠にとどまらない、音楽を超越したアーティストとしての地位が確立されていったのです。
そうした視点から見ても、ベックの存在はひとつの芸術分野にとどまりません。
時代を画する芸術家
ジェフ・ベックの足どりは、単なる音楽的な功績以上のインパクトを我々に与えています。
既存の価値観に風穴を開けまくった革新者、ロック・カウンター・カルチャーの体現者として、時代を画する芸術家と言えるのではないでしょうか?
ベックの功績やその精神性は、音楽の枠を超えて様々な分野に影響を与え続けているのです。
8. 衝撃的な凄さ:実際に目の前でライブを見た感想
ギターという楽器が、自分の身体の一部になっている
実際にジェフ・ベックのライブを何度か観て、ひとつの事実を実感しました。
彼のギターは、紛れもなく自分の身体の一部のような感覚でした!
ベックが手にしたギターは、まるで元から腕の一部として自然に備わっているかのようで...
その指さばきは、自分の手足を動かすくらいスムーズなのはもちろん、楽曲との一体感がハンパないんです。
ギターが身体の一部になるとは、まさにこのこと。
そしてベックのギターが奏でる音は、まさに彼の言語そのもの。
「ジェフベック語」といえば伝わりますでしょうか?
心の内側から溢れ出る想いが、ギターを通して音となって自然と溢れ出ているかのようでした。
音楽というよりも、会話とか言葉という印象。
ベックの言語は、その意味を簡単に理解できるものではないのですが、“感じる”ことは出来るのです。
特に印象的だったのは、市販の普通のマーシャルアンプに、ほぼギター直で突っ込んでいるだけという機材のシンプルさ。
まさに、彼の指があのトーンを生み出していたのです...
9. ジェフ・ベックの人間味あふれる魅力
音楽に賭ける情熱と探究心
ジェフ・ベックが偉大なギタリストと呼ばれる所以は、音楽に対する並々ならぬ情熱と探究心にあります。
ギターひとつとってもベックは完全に解き明かそうとするかのように、ありとあらゆる可能性を追求し続けました。
そんな姿勢が、常に新しいサウンドや表現を生み出す源となっていたのです。
ユーモア溢れる素顔と謙虚さ
一方で、ベックは人としてもユーモア溢れる愉快な一面を持ち合わせていました。
楽しげな自虐ネタを言ったり、インタビューでは関西のおもしろ質問に機知に富んだ返答をするなど、人情味あふれる人柄が垣間見えます。
自身の代表作であるブロウ・バイ・ブロウについても「唯一聴ける作品」と謙虚に語っていた点も、魅力的ですね!
晩年までロッキングな姿勢
そしてなによりも、ジェフ・ベックが偉大なのは晩年までロッキングな姿勢を崩さなかった点にあります。
60代後半以降に至っても、舞台に立てば情熱を惜しみなく注ぎ込み、全力でプレイし続けました。
最後の最後まで常にロック魂を体現し続けた、そんな職人気質にファンは惹かれ続けたのではないでしょうか。
逝去後も、時を越えて燦然と輝く不朽の名を遺す
2023年1月10日、ジェフ・ベックが78歳で永眠したことは、音楽界に衝撃を与える出来事となりました。
ロック史に燦然と名を残したこのギタリストの死去に、世界中のファンやミュージシャンから哀悼の声が数多く上がったのです。
エリック・クラプトン、ジミ・ペイジ、ロバート・プラントらロック界の重鎮たちが、ベックへの追悼やメッセージを発表しています。
彼らにとって、ベックはギタリストとしてだけでなく、人間性においても"師"と仰ぐべき存在だったのでしょう。
多くのロック・ギタリストが公言するように、ベックなくしては自分たちの音楽は生まれなかったと言えるでしょう。
ジェフ・ベックが遺した偉業と影響は、計り知れません。
時代を画する革新者として、ギターの可能性と表現力に風穴を開けた功績は永遠に色褪せることなく、後に続くミュージシャンたちの羅針盤となり続けるはずです。
かくして、ベックの名は世紀を超えて不朽のものとして輝き続けていくでしょう。
この偉大なるギタリストの逝去は、ロック・ファンはもちろん、音楽愛好家全てに深い哀しみをもたらしました。
しかし同時に、ベックの半生と音楽に対する並々ならぬ情熱が再認識される機会ともなりました。
ジェフ・ベックという人物が、そのスケールの大きさゆえに時代を超えた永遠の伝説へと変わりゆく、そんな歴史的な刻を人々は目撃したのです。